なぜ根管治療は必要なのか?
こんにちは。
歯科医師の後藤祥太です。
今回は根管治療(歯の内部にある痛んだ神経を抜く処置)がなぜ必要なのか、
についてお話していきます。
はじめに、お伺いいたしますが
「むし歯」を放置しておくとどうなるのかご存知でしょうか。
むし歯は痛みを発するときと、痛みがなく進行している場合など、その様相は様々です。
むし歯は風邪のように自然に治ることはなく、治療をしなければゆっくりと確実に進行していきます。
ご自身では気付けないことも多いのがむし歯の特徴とも言えます。
このブログをみていただいている方のなかには歯医者に行ったのは何十年も昔、という方もなかにはいらっしゃるかもしれません。
お口の中で痛みなど特に気になる症状もなく、健康に暮らせているのであればとても素晴らしいことと思います。
ですが、むし歯は痛みなく進行していることもあるので要注意です。
むし歯は放置しておくと風邪のように自然に治るものではなく、取らなければすこしずつ大きくなり、歯を失う原因になることもあります。
小さいむし歯ですと1回や2回の治療で終わる事もありますが、なにもせずにそのまま放置していると勝手には治ってくれず、時間が経つにつれて次第に大きいむし歯へと変わっていきます。
お口の中での痛みの原因は様々で、必ずしもむし歯が原因とは限りません。
実際に当院にいらしていただいてお口の中を精査した結果、むし歯ではなく知覚過敏でしみていた、歯周病(歯槽膿漏)で痛んでいたなど他の原因がみつかることもあります。
虫歯の深さとはどういうものなのでしょうか?
こちらについて説明していきます。
下は歯の断面図です。
虫歯の深さは大きく分けて5つあります。
CО (Caries Observation)
歯の表面を覆うエナメル質が白くなっていたり、茶色っぽくなっていたりすることがありますが、穴は開いていない状態です。しみたり痛んだりする症状が出ることは少ないです。穴をあけて治療するよりもこのまま進行をさせないように、ブラシでよく磨いてフッ素を塗布し削らずに経過観察することが多いです。
ご本人にもCOの歯を確認してもらい毎日のブラッシングも念入りに磨いてくださいと伝えています。
C1
歯の表面のエナメル質まででとどまっていて、その奥にある象牙質という歯質まではいっていない虫歯を指します。穴はまだ開いてない状態です。
虫歯の表面は白濁していたり黒っぽくなっていて、舌で触るとザラザラします。痛みなどの症状はほとんどありません。
レントゲンや肉眼で確認してむし歯の範囲と深さが少ないと診断した場合、経過観察をします。治療が必要な場合のみ、とても小さい切削器具で虫歯になった歯の歯質を削ってコンポジットレジン(樹脂)などのつめ物をします。治療回数は1~2回などで終わるケースがほとんどです。
C2
虫歯がエナメル質を破って象牙質まで浸食してしまった状態です。
冷たい物や甘い物がしみたりすることがあります。
虫歯の部分を削って、コンポジットレジン(樹脂材料)で詰めたり部位によっては型取りをして部分的なつめものをします。レントゲン上で神経に近ければ治療中に痛みが出る可能性があるので浸潤麻酔を使用します。
虫歯が進行している範囲によっては被せものになる事もあります。
また長い期間虫歯にさらされたことによって、神経が痛んでいることがあります。
神経を保存する治療が優先されますが、痛みが強く出てしまった場合には神経が残せないケースもあります。
C3
象牙質の先、歯の神経のお部屋まで虫歯が進行してしまった状態です。
神経まで虫歯が進んでしまっているため、冷たい物はもちろん熱いものがしみたりズキズキとした強い痛みが頻発することもあり、痛みがある箇所での食事が大変困難となります。
炎症の度合いによっては痛み止めも効きづらく熱を持ち、夜も眠れないくらいの痛みが出ることもあります。
神経が細菌によって傷つき痛みを発しているため、神経を取る処置(根管治療)が必ず必要となります。
C4
虫歯で歯が大きく崩壊して歯茎の中に歯の根だけが残っている状態です。
虫歯がここまで進行し歯の根だけになってしまった場合は、極力残せるよう努力はしますが多くの場合は残念ながら残せないことが多く、繰り返し腫れたり痛みだす前に歯を抜く処置が必要となります。
このように、「むし歯」を放置していると徐々に進行していき、そしてだんだんと痛みが増していきます。痛みのピークを過ぎると歯の神経や血管が腐敗して、細菌が増え続け歯の内側と外側で炎症を起こし続けます。そのまま放置していると抜くことしかできないほどむし歯が進んでしまいます。
われわれとしては、極力抜かないよう最善の治療を行っておりますが、破折してしまった歯やC4の歯を残して長く使っていく、というのは難しいケースが多いです。
以上のむし歯の違いから大きさによって歯を削る量は違ってくることが分かります。
C4(=いわゆる重度のむし歯で抜かなければならない状態)になる前のC2~C3の状態で処置できるのが根管治療です。
むし歯によって破壊されてしまった歯でも根管治療を適切に行い、歯の質と量を可及的に多く保存していくことによって、 もとの歯と同じように咬む力に耐えて、長く使用していくことが出来ます。
細菌によって痛んだ歯の神経が、炎症を起こしズキズキとした痛みが治まらない場合、
神経をとらなければ痛みは治まりません。痛んだ神経を取り除く根管治療は、何度か続けて通院をする必要があります。
短期間に継続して歯の内側に薬を循環させ、細菌の数を減らす必要があるからです。痛みが出ないようしっかりと神経や細菌を取り除きますが神経の部屋が空のままだと細菌が繁殖し痛みが出てしまいます。
神経の部屋(根管)をキレイにした後に、根管充填という治療で根管内を緊密に封鎖して細菌の増殖を抑える必要があります。根管封鎖に使用される材料として、時間経過で変形量の少ない樹脂(ガッタパーチャ)と、コアとなる樹脂が入り込めない小さな隙間を埋めるための流動性の高い糊(シーラー)があります。
これらを使用し、根管に細菌が増殖しにくい環境を丁寧につくっていくことが、歯を健康に保ち長く使うために大事になってきます。
また、一度神経を取ってきっちりと根管充填した歯でも生活習慣や口腔内の衛生状態が悪いと被せものをした歯の中の歯質は時間をかけてむし歯になります。
そうしてむし歯が進行していくと神経を取った歯は、少しくらい虫歯が広がったくらいでは痛みが出ないので細菌が増殖し、根っこの先が炎症することがあります。炎症すると鈍い痛みや噛むと痛くなったりして虫歯が進行したサインを出してくれます。
そうなると、かぶせものをはずし、土台を丁寧に取り除いて、専用の薬液で樹脂を外していきます。それから根管治療を行うので単純に神経を取る抜髄よりも通う回数は増えてしまいます。
エビデンスのある器材や薬を使用し治療を行っても根管治療をする度に成功率(=5~10年後痛み等症状がない状態)は半分に下がります。
なぜかというと、一度手が加えられているため根管の形態が自然な形態から逸脱した形であったり、痛んだ歯を削った結果薄いところが出来ていたり、もともとの歯の形が複雑であるため根管治療自体難易度が高いものであるケースなど、理由は多岐にわたりますが成功率は下がる傾向にあります。
その為、再根管治療の場合は更に削る事になるので根管治療が完了したとしても固い物を噛んで強い力がかかったり寝ている時の歯ぎしり食いしばりなどで歯が割れる可能性が高くなります。
「歯の痛みが再発しても、また治療をすれば大丈夫だろう」と思う方が多くいらっしゃると思いますが
歯の歯質には限界があり、見た目が少し黒い程度のC1むし歯を治療してコンポジットレジンを詰めるのみの処置で終わったとしても、お口の中の衛生状態が悪いと時間をかけてつめものの下から虫歯になっていきC2、C3と段々と深くなっていきます。
根管治療は何度も行える処置ではありません。
回を重ねるごとに成功率は半分に下がっていくからです。せっかく時間を費やして治療に通ってもむし歯の再発、細菌の増殖を繰り返していると最終的に歯を失うことになります。
歯科衛生士の定期検診とメインテナンスを受けて頂くことが一番の予防法ではありますが、既に根管治療が必要な段階である場合は、できるだけ精度の高い(治療成績の良い器材を使った)処置を受けて再発防止に努めていきましょう。
神経が痛んでしまった場合に、根管治療を行い歯を残すことが出来て10年後20年後にも困ることなく健康で過ごせる、これが根管治療を担当する歯科医療者としての切なる願いです。
歯や、歯茎の痛みは身体からの重要なサインです。なにか気になることがありましたら、ぜひ当院へお気軽にお問い合わせいただければと思います。